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愛を読むひと 【責任と 罪悪感と 愛情と】

tag ヒューマン 恋愛映画 青春 法廷 戦争

『愛を読むひと』 THE READER
2008年・アメリカ=ドイツ
ドイツの法学教授ベルンハルト・シュリンクの1995年の小説『朗読者』を映画化。

 純粋でまっすぐな少年マイケル(デヴィッド・クロスレイフ・ファインズ)がいかにして孤独に陥り、人との絆を築けなくなったか。そして、長い孤独の果てに再び深い絆を築こうとするまでの話。同時に人の心の複雑さ、罪の意識の複雑さ、人の汚さや責任といった重いテーマで貫かれている。それらの心情は明確に描写されず、観る人が受け止めて考えるタイプの映画だにょ。

 舞台はドイツなのに英語なのかよってツッコミは野暮ですよ、奥さん。「ドイツ語の本はないの?」って台詞の後に「あるよ。(英語で朗読する)」ってのも、まあ仕方ないか。キーになるのが本の朗読だけあって、様々な本が出てくるのが楽しい。エンドロールでは、引用された本のタイトルがズラーっと出てくるのも壮観。マーク・トゥエイン、ホメロス、トルストイ、チェーホフ、リルケ、カミュ、D.H.ローレンス、ヘッセ、ベケット、ディケンズ…。

 見終わってみると邦題がしっくりこない。愛、と単純に言えるのかと。それには罪悪感も大いに混ざっていたように思った。あと字幕がなっちだったのが残念至極。迷訳になってるとこがあったけど覚えてないや。意味のわからない部分は迷訳のせいなので、責めるならなっちを責めよう。
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ケイト・ウィンスレット
レイフ・ファインズ

コトノハ


"What would you have done if it were you ?"
(あなたが私の立場なら、どうしました?)

 ハンナ(ケイト・ウィンスレット)が裁判のときに判事に放った言葉。彼女は国に与えられた仕事を真面目に遂行したのだ。仕事への責任感が、そうさせさたのだ。もちろんそれは残虐と責められても仕方ないことだけど、そのときの国の状況を考慮すれば彼女もまた戦争の被害者なのだ。

"What we feel isn't important. It's utterly unimportant. The only question is what we do."
(何を感じるかじゃないんだ。それは全く重要じゃない。問題はどう行動するかだよ。)

 教授にマイケルが言われる言葉。似たようなことを後にハンナも言う。辛かろうと、苦しかろうと、やった事はやった事。それを背負っていかなきゃならない。自分がそれをわかっていれば、他の誰かに謝ったりする必要はない。なんて孤独なんだろう。

どんな映画?
 序盤は、15歳の少年と30代半ばの女性との突然のエロに驚いた!親子ほど年の違う二人が、唐突に肉体関係を結ぶ。『個人授業』とかそういう青春エッチ映画のノリ。なので最初は呆然とした。

 少年のまっすぐさ純粋さと、女の気難しさと苛立ちとミステリアスが対比されて切ないものがある。始まりこそ唐突だったけれど、ハンナは少年の愛に少し心を開き、そして愛したのだと思う。愛すればこそ、マイケルが友人と遊ぶ時間を自分が奪っていることに耐えられなくなって苛立つ。年齢を考えれば、この関係が続くわけもない哀しさ。

 ハンナの、ともすれば横暴な気難しさや、旅先の教会で聖歌に聴き入る表情、楽しそうにはしゃぐ子供達を見る悲しげな目つき。これらが示すのは、ハンナが背負っている罪に押しつぶされそうなこと。とりわけ教会という場所は彼女にとって特別な場所だったことが後にわかる。

 幸せなひと夏、おそらく3~4ヶ月の恋。ハンナは突然姿を消す。マイケルの絶望はどれほどのものだったろう。なぜ、何も言わずに、書き置きすらも残さずにいなくなったのか?そうして年月が過ぎ、マイケルは法学生になっていた。傍聴した裁判の被告人席にいるのは、あのハンナだった。

 ゲバラの言葉を思い出す。まず農民達に読み書きを教えたゲバラ。「読み書きができなければ、簡単に騙されるからね」といって、教育の大切さを説いた革命家。

 ハンナのプライドの高さは美しくもあり破滅的でもある。それに、嘘を知らない少女のような表情を見せる。暮らしぶりを見ても貧しく、家族もいない。戦争孤児なのかもしれない。彼女の過去については謎のままだ。でも、そこまで彼女の人生にのしかかる“文字”を何故もっと早く学ぼうとしなかったのだろうか。人に習うのが恥ずかしかったのだろうし、金銭的余裕もなかっただろうけど。学ぼうと思えば、できたのではないか?と考えてしまうのは恵まれた日本人的考えなんだろうな。

 一方マイケルは、ハンナの刑期を他の被告と同じ程度に縮めることの出来る事実を認知していたにも関わらず、ハンナの意思を尊重して(或いは愛ではなく怒りや自衛のために)、その事実を報告しなかった。法の番人としての罪悪感と“できたのにやらなかったこと”に対する後悔。そうやって、かつてのハンナのようにマイケルも気難しくなってしまった。罪悪感というファクターが2人を似たものにしてしまった。

 年を重ねたマイケルの、ハンナに対する複雑な思いが痛々しい。マイケルの態度が、ハンナを決定的な決断へと向かわせてしまったことに本人は気づいただろうか?でも誰も彼を責めることはできないよね。ハンナは彼を突然捨てて愛への希望を奪った。ハンナは知らないけれど、彼の心を罪悪感で満たしてきた。

朗読テープに吹き込まれたのは、それは純粋な愛だったろうか。私には罪悪感と責任と哀れみと呪縛のような愛の残り火のミクスチュアに思えた。手紙に返事も書かず面会にも訪れなかったのが、単純な愛ではない証拠だろう。戦犯への嫌悪、謝罪や反省をしない彼女に対する怒り。そういうものが複雑に絡み合った感情だ。マイケルは本当には彼女を理解していなかった。というより、戦争の強制力を理解できなかったのかもしれない。

 最後にデスマーチの生存者に渡されるお茶の缶は、貧しいハンナにとっては価値あるものだった。何一つ持っていないハンナが大事なお茶缶を彼女に渡したいと思ったのは、せめて償いの気持ちを伝えたかったからだろう。そしてその気持ちは受け止められた。生存者は言う。「収容所で何を学んだかって?なにも。あそこは何も産み出さないところよ。」この言葉をマイケルはどう受け止めただろうか。
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俳優は誰?
 ハンナ・シュミッツ役にケイト・ウィンスレット。さすがです。複雑なハンナという女性の多面性を見事に演じています。『犬を連れた奥さん』を読むときの"the"で泣かされた!老けメイクはあまりシワシワじゃなくってたるみもなく、美しいままでした。

 この映画の主役マイケル。おっさんマイケルをレイフ・ファインズがじっとりと演じました。こちらもさすが、です。ラスト、NYで生存者と話すシーンはすごい。ヤング・マイケルを演じたのは撮影当時17歳~18歳のドイツ人デヴィッド・クロスくん。彼も素晴らしいよ!15歳~法学生時代(22、3歳かな)をしっかり演じ分けてたよ。この映画のために英語を勉強したとかで、今後の活躍も楽しみな若手のホープ軒ですね。

 おっさんマイケルの娘ジュリア役は『4分間のピアニスト』の主役ジェニーを演じたハンナー・ヘルツシュプルング。ジェニーは強烈なマッドネスだったけど、今回のジュリアは出番も少なくいたって普通の人でした。

 他、レナ・オリンが生存者親子の母親と、年月を経た娘の二役で出演。

関連作品のようなもの
朗読者 (新潮文庫)原作本。
朗読者 (新潮文庫)
ベルンハルト シュリンク
チャタレイ夫人の恋人 (新潮文庫)マイケルが読んで聞かせる。
チャタレイ夫人の恋人 (新潮文庫)
D.H. ロレンス
かわいい女・犬を連れた奥さん (新潮文庫)『犬を連れた奥さん』を読みながら、ハンナの発する"the"で泣いた。
かわいい女・犬を連れた奥さん (新潮文庫)
チェーホフ
愛を読む人これは全然違う本なので間違えないように。
愛を読む人
パール アブラハム

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コメント


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サイズ君 | URL | 2009年06月29日(Mon)15:09 [EDIT]

これは書くのが止まらなくなりそうな作品ですね。
ちょっとエロいところが苦手なんだけど、きっとその部分も必要なんだろうね。
「切株・スプラッタは平気なくせに、Hなシーンを嫌がるのが不思議」って彼氏に言われるけど、お約束のように入るお色気Hシーンが苦手です。

>サイズ君さま。

P | URL | 2009年06月29日(Mon)22:35 [EDIT]

観た後いろいろ考える、良い映画でした。
エロは一人で観るなら良いんだけど、誰かと一緒だったり映画館なんかだと気恥ずかしいっす。
後ろに座ってたおばちゃん達もクスクス笑ってましたよ。終わって劇場から出るときも「ずーっとあんなだったらどうしよー!って思ったわよ!」って。

lifeonmars | URL | 2009年06月30日(Tue)00:08 [EDIT]

邦題は「朗読者」のままの方が良かったですよね。
おっしゃるように、読んでいたのも単純な愛だけじゃないですし…。せっかくベストセラー小説の映画化なのに邦題は残念でした。

kino | URL | 2009年06月30日(Tue)01:59 [EDIT]

ハンナを絵として観れたのは、うれしかったですね。
文字では、よく理解できない人物がハンナで、この、あやふやな人物を解釈し演じたケイトは、うまかったと思います。ケイトの表情がつくことによって、新しく感じれる部分がものすごく多い映画でした。
日本語タイトルは、ちょっとイージーすぎますね。

>lifeonmarsさま。

P | URL | 2009年06月30日(Tue)09:07 [EDIT]

『きみに読む物語』を意識したんでしょうね。
設定がちょっと似てるけど、テーマが全然違うのになぁ。
愛に感動を求める女性客を目当てにしてるんでしょうね。
なんかそういう意図が透けて見えると冷めちゃいます。

>kinoさま。

P | URL | 2009年06月30日(Tue)09:13 [EDIT]

原作読まれたのですね。私は読んでないんで映画だけの感想ですけども。
ハンナの複雑な人間性が浮かび上がって、映画を深いものにしてますよね。
責任感が強いゆえに、また自分のしたことをソレとして受け容れ背負っているだけに、あのような態度になったのだなぁと。
他の被告みたいに逃げたりしないとこが潔かったです。

なるは | URL | 2009年07月12日(Sun)21:07 [EDIT]

私も「愛」ではないなって思いました。
安易につけちゃったなぁと。
すっぱり「朗読者」でも良かったのではないでしょうか。

デヴィッド・クロス、本当にうまかったです!
アカデミー賞で助演男優賞にノミネートしても
良かったのになぁと思いました。

それからPさんの助言あって、
序盤のラブシーンは心の準備をして臨めました(笑)
えっ突然!と驚きましたが、
映画自体の作りが良かったので
あまり気にならなかったです。

>なるはさま。

P | URL | 2009年07月13日(Mon)10:14 [EDIT]

愛だけなら、こんなに複雑にはならなかったですよね。そこらへんが邦題のセンスの限界かしら。

デビット・クロス、素晴らしかったですね~。今後が非常に楽しみであります!
レイフ・ファインズはこないだの『ある公爵夫人の生涯』でも凄かったですよ。『ストレンジ・デイズ』、『ナイロビの蜂』あたりもおすすめ!

突然のアレ・シーンはやっぱり驚きますよね~。その場では、失敗したかなぁと思った瞬間でした。だって15歳相手だもんね。

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