
2008年・アメリカ=フランス
ミッキー・ローク主演によるプロレスラーの後半生を描いたドラマ。
ミッキー・ロークといえば猫パンチっていうのが、どうしても深くぐっさりと埋め込まれたイメージ。それが、この映画を観るとその凄みと哀愁に圧倒されて、彼の背中を見ているだけで涙が出る。こんな風にミッキーが第一線に戻ってくると、誰が予想できただろう。若い頃は甘いマスクにワイルドな魅力で俳優としての実力も申し分なかったミッキーが、ボロボロのマッチョを演じる。
監督は英国女優レイチェル・ワイズのパートナー、ダーレン・アロノフスキー。演技派美人女優と監督のカップル、多いですよね。ケイト・ウィンスレットもそうですしね。
映画はレスリング場面が多く痛い描写がかなり続きますので、そういう耐性のない方は相当覚悟して観てくださいな。もちろん血も出るし、ある種スプラッタですから。痛い描写が苦手な人にとってはかなり辛いと思いますよ。私も最初から最後まで「ウッ」「アァウッ」と呟きながら顰め面で観てました。(`・ω・´)
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"Fuckin' 80's man, best shit ever!"
('80年代が最高よ!)
これは音楽の話で、ガンズにモトリー・クルーにデフ・レパードなんかのロックが最高だったのに'90年代クソクラエー的な会話。映画に使われている音楽もガンズやファイアハウス、クワイエット・ライオットなど愛すべき'80年代ロックが沢山。
ミッキーも'80年代にホットだった俳優だし、映画の中のランディも'80年代にホットだったレスラー。自分の最盛期の時代イメージが、やっぱり最高だよね。だから、音楽は'80年代が最高って語り合うこの短いシーンは意味深く、印象的だった。
どんな映画?
ランディの後ろを付いて歩くようなドキュメンタリー調のカメラ・ワークが多く、全体的に静かに淡々と進む。それがまたリアル感を増幅していて凄いんだ。すべてが巧い映画でした。
かつて人気を博したプロレスラー、ランディ“ザ・ラム”ロビンソン(ミッキー・ローク)はすっかり年をとって、耳には補聴器、何か読むときは老眼鏡、試合で受けた古傷の痛みにも耐えながら生きていた。
スーパーでバイトしながら、週末は場末のレスラーとしてリングにしがみつく生活。トレイラー・パークで一人孤独に暮らしつつも、レスラーとしての自分に投資することは止めなかった。日焼けサロン、髪染め、肉体構築、薬、ステロイド…かなりの出費。いつものように週末興行を終えたランディは、ロッカールームで倒れた。ステロイドを使い続けたために心臓に負担がかかり、心臓発作を起こしてしまった。
医者にレスラーはもう無理だと言われ、なんとかリングの外での生活を建て直そうとする。疎遠だった娘と和解しようと努力し、週末もスーパーで働くようになり、思いを寄せるストリッパーのキャシディにアタックしてみたり。そりゃあもう痛々しい。
プロレスはショーでありエンタテイメントだけど、体の痛みや血や怪我は本物だ。それはまぎれもないリアル。ショーに肉体を捧げるその痛々しさ。ちなみに額を切るシーンは本当に切ったのだそうですよ、ミッキーったら。痛々しいのはリング上の闘いだけではない。もう、全て。すべてのランディの行動が痛々しい。見てるのが辛くなるくらい体も心も痛い。あ、でもユーモアもソコかしこにあって面白いよ。
彼の本名はロビン・ラムビンスキー。でもリング以外でもランディ・ロビンソンでいたい彼は、激しく本名を否定してランディと呼んでくれと言い続ける。それがとても象徴的。彼にとってのリアルはリングの中であり、外の世界では何もかもうまくいかないダメな男。従って彼はロビン・ラムビンスキーを受け入れられない。
リングの外の彼のダメっぷりは存分に描かれて、そりゃあ娘も絶縁したくなるわって感じなんだな。それでも彼には、すべてを賭けられるレスリングがあっただけ幸せだったかもしれない。娘へのプレゼントを選ぶシーンは面白くて大笑いしてしまい、でもそれを受け取ったステファニーの顔を見たら、笑ってゴメンて気分になった。ランディの娘への愛情は、あの蛍光グリーンにたくさん詰まっていたんだもんね。
ぼろぼろのランディをしっかり昇華させたラストは、滅多にない心に迫るラストシーンだった。あの後どうなったのかは、観た人それぞれの心の中に任されている。私は…割としっかり想像できた。その想像があんまりにもやるせなくて、泣いた。
俳優は誰?
ランディ“ザ・ラム”ロビンソンにミッキー・ローク。監督は最初からミッキーで!って思ってたけどスタジオ側がニコラス・ケイジが良いと思うよって渋ったらしいです。監督の粘り勝ちでミッキー案が通り、ミッキーの俳優人生と重なるランディのレスラー人生が映画をより奥深いものにしてます。監督、エライ!それにミッキーの体格はアスリートらしいけど、ニコラス刑事だとちょっとなぁ…。もちろん刑事でもそれなりの作品にはなったでしょう。でもこれほどには、ならなかったんじゃないかね。
そして素晴らしかったのはミッキーだけじゃない。ランディが思いを寄せるストリッパー、キャシディ(パム)にマリサ・トメイ。40代半ばとは思えないきれいな体を晒してます。いや、本当に美しかったしよくあそこまでストリップ演技をした!女優魂を感じますよ。ランディと違って現実の責任を全うしようとする彼女の存在は、ランディのダメっぷりを強調してくれました。店にいるときはキャシディ、オフのときはパムと呼んで欲しいというのが、彼女が役割を分けて考え現実に対処できている象徴かなぁと思ったお。
ランディの娘ステファニー役にエヴァン・レイチェル・ウッド。今回は黒髪にケバい感じのメイクで登場。この人は本当に透明感があって繊細な雰囲気だよね。『ダイアナの選択』も素晴らしいのでどうぞ観てください。子役で『プラクティカル・マジック』なんかにも出てたよ。今、一番期待している若手女優さんだにゃー。

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