
2009年・アメリカ
トムがサマーと出会ってから500日の軌跡を描くほろ苦ドラマ。
典型的なボーイ・ミーツ・ガールもので、一貫して男目線で描かれています。主人公はトム(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)。どこにでもいる普通の若者。一目で恋に落ちた彼女の名はサマー(ズーイー・デシャネル)。ちょっとエキセントリックな、青い瞳に水色ファッションの女の子。
トムとサマーが出会った日をday1として、2006年1/6(月)~2007年5/23(水)まで(と思われる)500日間のお話。二人の微妙な関係、というかサマーにいいようにあしらわれるトムの奮闘記であり、ラブストーリーではない。そう、これはトムの成長記。トムの、500日。
監督は音楽PV畑出身のマーク・ウェブ。長編映画はこれがデビュー作!して、このたび新シリーズとして再起動する『スパイダーマン』の監督をオファーされたとの噂。実現したら、悪くないですな。サム・ライミのスパイディは面白かったけど、今度はまた違ったスパイディが始まるのだからソレはソレで楽しみです。
![]() | (500)日のサマー [Blu-ray] ジョセフ・ゴードン=レヴィット ズーイー・デシャネル |
"Color my life with the chaos of trouble."
(私の人生を苦しみの混沌で彩れ)
サマーが卒業アルバムに書いた歌の一節。ベル・アンド・セバスチャンの"The Boy With The Arab Strap"という歌の歌詞でございます。サマーもトムも大好きなザ・スミスをリスペクトしている英国バンド。
サマーのチャレンジングな性格が出ていますね。新しいことを始めたくて転職したり、男に縛られたくなかったり。その、平穏無事から遠ざかり混沌を恐れない自由さは羨ましくもあります。
どんな映画?
冒頭のナレーションで「この物語はフィクションであり実在の人物とは関係ありません。…とりわけジェニー・ベックマン、あなたとは。 …ビッチめ。」と語られます。ここと、最初の二人並んでベンチに座る短いシーンで、この物語の結末は明白。にも関わらず、構成の妙というのか、わかっちゃいるけど面白い!最後までググっと引きつけられました。
前半は(240)日の、サマーにふられて荒れるトムのシーンが基準点。小学生の妹がトムを慰めに現れます。トムはサマーに出会った日を回想。そして回想シーンはあっちこっち飛んで日付を行ったり来たりします。各シーンの最初には必ず“(○)日”と書いてある絵が入ります。この絵が明るかったり暗かったりして、その日のトムの心情を表しているのが面白い!後半は(240)日以降のことも描かれていき、トムの物語は500日目を迎えます。
トムはまるで螺旋階段をひとつ昇って降りたみたいで。恋に浮かれて舞い上がり、登り詰めて。あとは同じ階段をまた螺旋を描いて降りていく。降りてみると何も変わらないのだけど、確かにひとつの螺旋階段を昇った、という事実・経験だけが残る。そしてその経験はトムを形成するものになる。もう以前のトムではない。少し前に進んで、少し自信を身につけたトムがそこにいる。
身を焦がし焼けつくすような夏の季節(サマー)を過ぎて、次の季節に進んでいくトム。男なら一度は、そんな息苦しい噎せ返るような夏の恋を通り過ぎるのだろう。そして女は誰だって、サマーだった一時期があるだろう。あの頃の誰かにとって私は、トムにとってのサマーであった。でもサマー自身も変わっていくのだ。
映画は全体を通してトム目線で語られるので、トムの心象風景が映像化されたシーンがたくさん出てくる。期待と現実を2つ並べて描くシーンでは、期待の方は勿論トムの頭の中にしか存在しない。一番印象深いのは、サマーと結ばれたあとの朝に、浮かれて踊るように通勤路を歩くシーン。通りの人はみな幸せそうに微笑み、サマーの好きな水色の服を着て一緒に踊る。この高揚感はわかる!フランス映画『地上5センチの恋心』でも似たようなシーンがあって、化粧品売り場の商品が楽しく踊っていた。
そしてもう一つ、ある意味キーとなる(488)日のシーン。ラスト近く、公園のベンチで二人が語り合う場面は切ない心象風景。あれは現実のサマーなのか、トムの頭の中のサマーなのか?受け止め方は人それぞれだけど、私は後者だと思ったよ。現実には、トムは一人で折り合いをつけるために思索にふけっていたのだろう。だから、あの場面のサマーはそれまでの彼女とはまるで違う。ファッションも髪型も態度も。ブルーを身につけていないのも、トムの中ではもう自分の知っているサマーじゃなくなったことの表れ。何よりもサマーはわざわざトムに会いに来たりしないと思う。偶然会っても、あんな風に説明をしたりはしない。
さて、この映画。音楽と映画が小道具としてよく出てきます。まず音楽。二人が話すキッカケとなるのはザ・スミス。そしてホール&オーツ、レジーナ・スペクターなどが効果的に流れます。最高!久々にサントラ欲しい!予告編にも使われた印象的な曲はザ・テンパー・トラップの"Sweet Disposition"。広がりのある、ポップでスイートな曲よね。素敵。
"Sweet Disposition"/The Temper Trap
そして、カラオケ・バーで口ずさんでいたナイトライダーのテーマ。
他、ほぼ全曲リストはこちらをご参考になさってください。
映画は、冒頭と終盤の『卒業』やハン・ソロの顔のどアップ(『スターウォーズ』)、二人で映画館デートしたり、トムが一人で行ったり。
デートで観た映画は『Vagiant』というタイトル。架空の映画だそうですが、ヴァンパイア+ジャイアントでヴァジャイアント、だって。でも待って。女性オンリーのパンクバンドでVAGIANTっていますよね(最近VAGIANT Bostonに改名)。さすが音楽畑出身の監督ですね、この辺り。でもでも更にちょっと待って。どうにも女性器のvagina(ヴァジャイナ)を連想させますよね。一方その頃サマーは「ペニス!」って叫んだりするわけですよ。
ちなみにサマーが唐突に口にする“アナル・ガール”は"ケツの穴の小せぇヤツ"的な意味。細かいことにこだわるきれい好き・整理魔のこと(フロイト先生の肛門期を参照)。この映画、折に触れてこういうエロというか下品なネタを仕込んでくるから侮れん。
トムがうつらうつら映画館で夢見ているのは『第七の封印』、『仮面/ペルソナ』などなどのパロディ・コラージュ。チャップリンぽいのもあったけど、どうだろう。残念ながらよくわからんかった。古い映画好きな方ならもっとわかるかも。このシーンも、この映画お得意の心象風景の映像化ですな。
長編映画デビュー作にして、これだけ細部にまでこだわった完成された映画ができちゃって凄いですよね。こう一本筋の通った、そしてお洒落でもある映画。ビターなのにラストが爽やかで、好き。もう一度観たい。運命の恋を信じるかどうかは問題じゃない。運命を司るのはバランスとタイミングだから。

俳優は誰?
どこにでもいそうな平凡な男トムにジョセフ・ゴードン=レヴィット。あの、くしゃっとした笑顔が最高!惚れる!彼の醸し出す普通っぽさがこの役にピッタリでした。『G.I.ジョー』では勿体ない使われ方だったので、超挽回ですよ。この映画で彼に惚れたあなたは、やっとDVD化された『ヒース・レジャーの恋のからさわぎ』を予約すべし!
印象的な青い瞳のサマーにズーイー・デシャネルちゃん。本当の発音は“ゾーイー”の方が近いです。アメリカではファッション・リーダーであり、音楽活動(She & Him)もしてたりの人気者。日本ではシャマラン監督の『ハプニング』で妻役、が一番わかりやすいのかな。映画版『銀河ヒッチハイク・ガイド』でトリリアン演ってたけど、あれは映画そのものが失敗作と思わざるをえない。
彼女が不思議ちゃんと言われるのも納得のPVを貼っとくよ。1:25あたりとか最後とか酷いw。
"Why do you let me stay here?" /She & Him
関連作品のようなもの
![]() | 脚本。英文。 500 Days of Summer: The Shooting Script (Newmarket Shooting Script) Scott Neustadter; Michael H. Weber |
![]() | 名曲揃いのサントラ輸入盤。ズーイーも参加してるよ。 (500) Days of Summer Original Soundtrack |
![]() | トムの好きな映画。フッテージが流れるよ。あと一瞬スターウォーズも映った。 卒業(1967) [DVD] キャサリン・ロス; アン・バンクロフト |
![]() | 二人の別れの会話に出てくるのはコレ。セックス・ピストルズのベーシスト、シド・ビシャスと恋人ナンシーの実話。 シド・アンド・ナンシー [DVD] ゲイリー・オールドマン; クロエ・ウェブ |
![]() | サマーの運命の決め手? ドリアン・グレイの肖像 (光文社古典新訳文庫) オスカー・ワイルド |
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