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アイガー北壁 【人と人 ザイルに繋ぐ 命の灯】

tag スポーツ ヒューマン 歴史 青春

『アイガー北壁』 NORDWAND
2008年・ドイツ=オーストリア=スイス
1920~30年代に次々と登攀された中でも唯一残された難所アイガー北壁に挑む登山家の実話を元にした映画。

アイガー炊飯ジャー♪たっきったてっ♪ヽ(´ー`)ノ

 はい。1936年、スイスの凍り付く夏。まだ誰も登攀したことのないアイガー北壁に挑む男達と、それを見学するキッチュな記者や金持ち観光客。そして起こる悲劇。

 原題はドイツ語で“北壁”のこと。英語では"north face"になります。

 北壁といえばThe North Face(ノースフェイス)という少々お高いアウトドアブランドがあります。その社名の由来はまさに北壁なのですな。アルプス3大北壁であるグランドジョラスのウォーカー側稜、マッターホルン北壁、そしてこのアイガー北壁が登攀困難のシンボルなので、そこから社名をThe North Faceとしたとのことですよ。困難にチャレンジすべし!ってことですかね。

 監督インタビューや登山用語解説、歴史的背景などは公式ページに詳しいので一度読むと良いと思います。ただ、実際に起こったことを元にしているのでネタバレ上等だから、ストーリーを知りたくない人は読んじゃダメ!一方、私の感想文はそんなにネタバレないのでどうぞ読んでいってくださいな。

アイガー北壁 [DVD]アイガー北壁 [DVD]
ベンノ・フュルマン ほか

どんな映画?


 山岳映画として本当に素晴らしい!登山シーンの映像は山肌を舐めるようなカメラワークや、ハーケンのアップ、ザイルのアップ、カラビナのアップ。これが臨場感あるんですよ。ドキドキした!ヒンターシュトイサーがザイルをしっかり握って大きくトラバース(横移動)する場面で外れそうなハーケンのアップなんて超ドキ胸ですよ。

 そして時折挟まれるアイガー北壁の不気味な威容。全景が見えるほどにひいたカメラで捉えられたその姿は恐ろしく神々しい。登山家たちの競争や悲劇性から、夢枕獏の『神々の山嶺(いただき)』(リンク先は漫画版、超オススメ)を想起しました。あの話がお好きならこの映画も激しくオススメです。

 登山(初登攀)と、政治的背景。これは測量隊の登山を描いた『劔岳 点の記』も同じでした。が、『劔岳』がどこかほのぼのしてたのとは違い、本作はあくまで厳しくリアルな凄みがあるよ!本作の政治的背景はドイツ、ナチの国威発揚のための登頂合戦。世界にドイツの優位性を見せつけよう!これから統合しようとしているオーストリアを牽制したろう!ドイッチェ、ドイッチェ!と。

また、ナチ神話―理念のために命をも犠牲にする英雄的行為―と合致する過酷な登山が、うまくナチのイデオロギー啓蒙に役立ったのです。登山をはじめスポーツがこのように政治的に利用される例はたくさんあり、映画の題材にもなっています。最近ではイーストウッド監督の南アフリカを舞台にした『インビクタス/負けざる者たち』がまさにスポーツで内政安定を!それは良い意味で!

とはいえ、本作では大概のスポーツと違って命に直結する登山がテーマ。主人公である南ドイツの登山家トニー・クルツ(ベンノ・フユルマン)とアンドレアス・ヒンターシュトイサーの二人(当時23歳)にとっては、ナチもイデオロギーも無関係。ただ前人未踏の頂きを我がものにしたかっただけ。個人的な名誉を欲していたんでしょう。オーストリア人に「ハイル・ヒトラー」と挨拶されてムグムグと口ごもるヒンターシュトイサーを見ると、むしろ反ナチだったのかもしれません。

それでも為政者は本人の意志などお構いなしに、政治利用するだけ。

 映画の中ではあまりその辺りを直接的に描いてはいないけれど、充分に匂わしてはいました。オーストリアの紳士が、ドイツ人におもねる妻に「お前はワーグナーも好きだったな」と嫌みを言ったり。ドイツ人の傲慢さを年配記者の言動を通して描いたり、ホテルで登山合戦を観戦する人々の妙な気張り合いが皮肉で滑稽で面白い。

 ストーリー的には、前半はあちこち笑いどころがあります。何度も笑ったですよ。特にアイガー北壁行きを決心して、ハーケンを鋳造しながら計画を練る二人の会話。
「あと交通費もかかるなぁ…」
「じゃあ自転車で行こうぜ。」
「いいね!ほんの700kmだしな!」

えー!700kmって!でもこれ数字は正確にわからないけど、本当に彼ら自転車でスイスに行ったんだそうです。すげえ。それだけで疲れ切るわ。

 二人の幼馴染み、そしてトニー・クルツの昔の彼女でもあるルイーゼはベルリンで記者やってて、スクープを狙って二人にアイガー北壁登攀に挑戦しろって言いに来ます。そのルイーザの言い草が自分勝手。なんじゃこの女!わしゃあ業腹じゃ-!こちとら命かかってんだよ!なんか軽く考えてないか?てめえの仕事への誇りとか出世とか関係ないわぁ!前年にマックス・ゼドゥルマイヤーとカール・メーリンガーが挑戦して遭難してんだぞ!っと。ごーはら♪ごーはら♪

 そんな笑ったり怒ったりの前半ですが。後半はもう辛さがどんどん増していく。《死のビバーク》に辿り着いた辺りからもう悲壮感しか漂わない。キー・アイテムはザイルです。ザイルに泣いてばかり!特に最後の最後のザイルはもう、驚きと辛さでたまんない。なんで!それ、なんで!ばかー!

 ラストのラストはルイーゼの語りが入るんですが、あれはいらなかったような気もします。きれいに纏めたかったんだろうけど、やっぱり硬派な山岳映画らしくもっと男臭いラストを用意して欲しかったところ。いや、充分素晴らしい山岳映画でしたのよ!登山家と観光客は同じ場所にいてまったく違う世界の住人のようなところも良かったです。おれたちゃ街には住めないからに~♪って頭をよぎる。
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俳優あれこれ
 映画の主役トニー・クルツを演じるのはベンノ・フユルマン。彼は年齢不詳な風貌だと思います!2003年のオカルト映画、ヒース・レジャー主役の『悪霊喰』でミステリアスなイーデンを演じた男です。この世の者ならぬ雰囲気が素敵でした。

TV映画『ニーベルングの指輪』の主役ジークフリートも演じていました。あれも最初は16歳ぐらいの年齢設定のはずなので、それにしちゃあオッサンなんじゃないか、と。

そんなベンノさん、今回の役は23歳の設定でした。オッサn(略。実年齢は、私よりきっかり2年早くお生まれになっているので38歳か…。こら!そうすると36歳か、とか言うな。

関連作品のようなもの
新編・白い蜘蛛 (yama‐kei classics)アイガー北壁初登攀を成し遂げたハラーの著書。
新編・白い蜘蛛 (yama‐kei classics)
ハインリッヒ ハラー
Nordwandドイツ語のハードカバー173㌻。たぶん写真メインの本。
Nordwand
Nordwandドイツ語280㌻。たぶんノベライズかな。
Nordwand
Rainer Lunau
アイガー北壁・気象遭難 (新潮文庫)山岳短篇集。表題のアイガー北壁は日本人登山家の実話。
アイガー北壁・気象遭難 (新潮文庫)
新田 次郎

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