
2010年・アメリカ
ティム・バートン監督がディズニーで撮ったファンタジー。
勿論、元ネタはルイス・キャロル(本名チャールズ・ラトウィッジ・ドジソン)の『不思議の国のアリス』と『鏡の国のアリス』です。これらの小説の元となった『地下の国のアリス』("Alice's Adventures Under Ground")は、キャロルが知人リデルの娘三姉妹とボートに乗っていたときに話して聞かせた物語。次女のアリス・リデル(当時10歳)が気に入って「書いてちょうだい!」と頼んだので、2年後にキャロルはイラスト入りの手作り本をアリスにあげました。いい話!
さて。観たのはIMAX-3D字幕版でした。わざわざ川崎まで出掛けたさ!川崎109は金曜17時前なのにもの凄く混雑してたよ。劇場もお客さんいっぱいだったし、さすが希少種IMAXだなぁと思いました。でも2,200円なんですよ、鑑賞料(子供1,500円)。IMAX-3D専用前売券なるものだと2,000円で200円お徳だったんですが、それだとネット予約できませんて言われたので買わなかったのよ。
バートンらしいダーク・ファンタジーであり、ちゃんとアリスらしい要素を詰め込んであり、1本の映画としてのまとまりもある。でもストーリーがどうこうって言うよりもね、単純に映像と狂った雰囲気を楽しみましょう!
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"Off with his (their) heads!"
(首を切れ!)
些細なことでも気に入らなければすぐに処刑する横暴な赤の女王。確かに暴君ですが、なんだか可哀想なんです。オベッカ使いに囲まれて、長女なのに女王の座は妹のものだったし(力ずくで奪ったけど)、愛してくれる人もいない。演じるヘレナ・ボナム=カーターの繊細さが伝わってきます。原作でいうと赤の女王(鏡の国)よりもハートの女王(不思議の国)に近いキャラクター。
どんな映画?
不思議の国から約10年後のアリス19歳(ミア・ワシコウスカ)。ちょっと不思議ちゃんでお年頃の女の子。貴族と結婚して不自由ない暮らしをするべきかどうか、すごく悩むわ!だって、プロポーズを断ったら彼に恥をかかせることにもなるし…。いつまでも母上様のお荷物でいたくもないわ!あ~ん、どうしよ~?!とりあえず三十六計かしら!
ってな感じに白ウサギ(声:マイケル・シーン)を追いかけて穴に落ちるアリス。もう小さな子供じゃないから、変人たちの間で翻弄されるだけじゃない。19歳のアリスは自我があり、人に指図されるより自分の意志で行動をします。そこが今までのアリスと違うポイント!
竜(ジャバウォッキー)退治を頼まれたアリスが「殺すのはイヤ」と言うのは、プロポーズを断って相手に恥をかかせたくない気持ちや、周りの人達や母親の期待を裏切ることになる罪悪感が重なっているように思いました。何かを選び取らなきゃいけないとしたら、どうするのか?相手を傷つけてでも自分の未来を勝ち取るのか。覚悟をもって。期待される姿ではなく、本当になりたい自分に向かえるのか。
映像的にはマッドハッター(ジョニー・デップ)と赤の女王(ヘレナ・ボナム=カーター)の役者にCG加工を施したマッチ感がとても見事!帽子屋は目をCGで大きくしているよ。あと瞳孔の開き具合が左右で違うのもCGの為せる業か。凄いなぁ、この合わせ技は。あ、ハートのジャックもCG併せてましたね。ヤケに足長。
帽子屋がまた狂気演技の巧いこと。時に恐ろしく、時に哀しげで、デップならではの表現が心を掴みます。父性も感じさせて、アリスの父親と重なります。さすがだよ、デップ。白の女王(アン・ハサウェイ)もコミカルで浮き世離れした感じが良かった!結構、残酷ですよね、このお方。
一方チェシャ猫は断然可愛くて、縫いぐるみが欲しいです。登場すると猫の喉音ゴロゴロ鳴るのがまた堪らない!ぐりーんと空中で寝転ぶ姿も愛らしい!帽子屋の帽子にふみふみするシーンとか何?サービス・カットこれ?とにかくグレーに青縞のふわふわ猫にマイッチング!
ところで、冒頭で母親に付けてもらったペンダントが穴に落ちて目を開けたときには消えています。およ?ラスト、帰還してからはあのペンダント付けてたっけか?そこを観るの忘れていました。失してしまったとしたら、母の期待(貴族との結婚への)を払いのけたって意味があるのかなぁ。
エンディング曲はアヴリル・ラヴィーンが歌う"Alice"。良いね。
アヴリルがアリスになるPV⇒"Alice"
3D感あれこれ
アリスが穴に落ちるシークエンスとチェシャ猫が出る全てのシーンは3Dの価値あり!あとはね、時々3Dだってことを忘れるようなアレ。あ、でもね、ちゃんと色々なものが手前に飛んでくるから、飛び出すギミック的には楽しいと思う。私、何度も避けたもん!
チェシャ猫の可愛さを堪能するには吹替版を観た方が良いと思うよ。字幕、手前にデカデカと浮いてるから超邪魔だったもん。3Dなら吹替版!なんだけどオリジナルの声聞きたいとかあって難しいよね。
IMAXに関しては、アスペクト比が違うくらいですかね(IMAXは1.44:1、通常は1.85:1(ビスタ))。通常の劇場では上下カットされてるのかな?そこ不明です。あとは映写機2台で光量が多いので映像が明るいのは素敵です。飛び出し感も他の方式よりあると思うので、まあ時間とお金と気持ちに余裕があればIMAXで観たら良いんじゃないかな。本当、無理することないと思うよ!RealDで充分かも。
さて、『アバター』や『コララインとボタンの魔女』は、3Dカメラで撮影した故の素晴らしい立体感・奥行きでした。それに構図の巧さとかもあるだろう。で、今回のアリスの場合は3Dカメラで撮影していません。映像は普通のカメラで撮影し、それを3D変換したものです。だからどうしても『アバター』やコララインと比べると立体感も奥行きも全然ないな、と。
で、だ。今後この3D変換(アフター・コンバート)がバンバンされるわけですよ、あらゆる映画で!『タイタンの戦い』を始め、来るアメコミ映画『グリーン・ランタン』、ザック・スナイダーの『サッカーパンチ』、シャマランの『エアベンダー』、ミシェル・ゴンドリーのアクション・コメディ『グリーン・ホーネット』もスタジオが3D変換を決定。旧作の『300』や『タイタニック』も3D変換するという。
(´д`)うへぇ…
いや、今後変換技術が洗練されて素敵な3Dに仕上がる可能性がなくはないですけどね。一方、マイケル・ベイは「出来が悪くて興ざめ」と後変換に嫌悪を示し、やるならきちんと3Dカメラで撮影すべきだと主張しております。さすが漢だね!3Dカメラで撮影された期待の映画としましてはポール・W・S・アンダーソンの『バイオハザードIV アフターライフ』が9/10~公開です。その他、スコセッシも3D撮影に興味津々だそうですよ。製作の決まった『メン・イン・ブラック』3作目も3D撮影だとかいう噂。
ティム・バートン監督も自分のモノクロ短編映画『フランケンウィニー』を3Dこま撮りアニメにしたいと言っていましたよ。こま撮りと3Dは相性が良いので、是非3D撮影で作って欲しいです!

アリスあれこれ
映画ではマッド・ハッター(the Hatter或いはthe Mad Hatter)という名前だけど、私は帽子屋として馴染んでおります。19世紀の帽子職人は獣毛を帽子に定着させるのに水銀を使用したことから、水銀中毒で(神経が)おかしくなると言われてて、そこから"as mad as a hatter"(帽子屋みたいに狂ってる)という慣用句ができました。と、言われております。
三月兎(march hare)も同じような所以。hareは野ウサギのことで、rabbit兎よりも大柄で兎のように穴に住む性質がありません。野ウサギは3月になると愛の季節を迎えて、狂ったようにボクシングしたり跳んだりする様子から生まれた慣用句"as mad as a march hare"から。でも本当は繁殖期(3月~9月)の間ずーっと奇妙な浮かれた行動をしているそうです。
チェシャ猫も元々"grin like a Cheshire Cat"(チェシャ猫のようににやにや笑う)の成句があって、そこから出来たキャラクター。この成句の成り立ちは明確にわかっていませんが、英国チェシャー(チェシャ州―英国の土地は州の意味でシャーが付きます。ヨークシャー、ランカシャー等々)の猫は笑っているのかしら?何にせよ、キャロルが物語に登場させる前からそんな成句はあったのです。
ヤマネは眠りネズミとも訳されます。っていうか、私が子供の頃は眠りネズミとして親しんでおりました。映画では妙に勇ましくて、きちんと起きて活動しています。アクティヴ!
映画に出てくるアリスの父の名前はチャールズ・キングスレー。ルイス・キャロルの本名チャールズへのオマージュ。また、キャロルと同時代に作品を発表していた19世紀英国の作家チャールズ・キングズリーへのオマージュも重ねているっぽい。代表作はファンタジー文学『水の子どもたち』(『水の子』とも)。
繰り返し出てくる問い"Why is a Raven Like a writing desk?"(なぜカラスと文机は似ているの?)は、キャロルが答えのない問いとして考えたもの。後に、あの答えは何だと皆にうるさく尋ねられたので仕方なく答えを造りだした。曰く"Because it can produce a few notes, though they are very flat; and it is nevar put with the wrong end in front." (なぜなら両方ともとてもflatな(カラスは元気のない、机は薄っぺらい)note(カラスは音・鳴き声、机は短い文)を発するから。それに後ろ前を決して間違えないから。)この"nevar"は"never"の意味で使っているけど、逆から読むと"raven"(カラス)になるというキャロル一流の洒落。

関連作品のようなもの
![]() | 『不思議~』の元となった物語。映画でもこの物語への目配せが。 地下の国のアリス ルイス キャロル |
![]() | 不朽の名作。アリス的展開は今日のファンタジーでもよく見られる。 不思議の国のアリス (角川文庫) ルイス・キャロル |
![]() | 続編は半年後の設定。セットでお楽しみください! 鏡の国のアリス (角川文庫) ルイス・キャロル |
![]() | アリス・イン・ミラーランド [DVD] ケイト・ベッキンセール; イアン・ホルム |
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