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小さな命が呼ぶとき 【まだ早い 可愛い我が子ら 逝かせまい】

tag ヒューマン

『小さな命が呼ぶとき』 EXTRAORDINARY MEASURES
2010年・アメリカ
ポンペ病の子供達の薬を作るため製薬会社を興した実在の男の話。

 原作はウォール・ストリート・ジャーナルの記者でピューリッツァー賞受賞経験のあるジータ・アナンドの書いたノンフィクション『小さな命が呼ぶとき』(文庫上下巻/原題"The Cure: How a Father Raised $100 Million--and Bucked the Medical Establishment--in a Quest to Save His Children")。

 ポンペ病というレアな遺伝病を小児期に発症した二人の子供たちの命を救うため、全てをかけて治療薬の開発援助をする父親とそれを支える家族の物語。私は恥ずかしながらポンペ病自体知らなかったので、この映画を通じて知ることが出来て良かった。そしてそれ以上に、不屈の精神で取り組む父親の姿とそれを支える妻の強さを通して、愛って凄いな!と思った。愛こそ、何かを変えることが出来るたった一つの冴えたやり方。

 とても爽やかで勇気の湧いてくる映画なのでオススメ!加えて、米国バイオ企業のビジネス的側面も描かれているのが面白いよ。バイオベンチャーの立ち上げ、身売り、大企業の開発手法など丁寧に描かれています。医療業界でシロウトのお父さんが奮闘する姿にハラハラ&ドキドキ。

 原題は“並外れた手段”となんだか硬い雰囲気。かといって邦題は良いけどちょっとメロっぽ過ぎるわね。そんなにメロメロしてないのよ、映画自体は。
小さな命が呼ぶとき [DVD]小さな命が呼ぶとき [DVD]
ブレンダン・フレイザー
ハリソン・フォード 他

コトノハ


"So I guess you can say we dodged that blessing."
(神の祝福ってヤツは避けられたってことかな)

 治療薬が存在しない病なので医者にもどうしようもできない。手を尽くしたけれど、そろそろ寿命と覚悟してください、神の祝福が訪れたと思うしかありません、と医者に言われるジョン。明くる朝、容態が持ち直したことを聞いてジョンは医者につい皮肉な口調でこう言うのでした。

どんな映画?
 はい、難病もの!といっても、どこかのお涙頂戴×感動押し売り系ではないので安心召されよ。レアな遺伝病の子を二人抱えるクラウリー家の父親ジョン(ブレンダン・フレイザー)が、ポンペ病のことを調べるうちに治療薬の可能性があることを知るのです。ジョンは医学とか薬学とか生化学とか全然シロウトなんだけど、ビジネスマンとしては優秀。で、これは何としても新薬の開発をしてもらわねば!と資金を集め、科学者に提供し、結局製薬会社を作っちゃう。
(※ポンペ病については次の章で詳述)

 明るい希望に溢れ、親の愛情を力強く描いた良作ですよ!キレイゴトではなく、我が子の命の為には手段を選ばない揺るぎなさが伝わってくる。製薬会社の内側も面白いし、ベンチャー・キャピタルから資金援助を得るときには、「利益が生じる生存率」「死亡許容率の目安」といった言葉が飛び出すのも凄い。言われてみれば当たり前だけど、企業にとっては治療薬開発にだって損益分岐点を考えねばならんのだな、と。

 ジョンを始めクラウリー家の面々は実在し、この一家が諦めずに努力した過程を映画は描いています。しかし一方、実際にジョンと関わった科学者たちについてはフィクション・キャラ=ストーンヒル博士(ハリソン・フォード)を一人作ってそこに集約しています。ってことでかなり脚色されてはいますが、実話インスパイアです。
実際のクラウリー家⇒The Crowley Family

 実在のウィリアム・キャンフィールド博士をモデルにしつつ、多数の科学者が果たした役割も併せ持つキャラクターとして作られたストーンヒル博士。これが何とも象牙の塔の住人らしくて良い味だしてました!生物学の知識は豊富だが理論にとらわれる傾向があり“理屈倒れのシュタ―デン”と呼ばれ…あ、いや、それは銀英伝だった。ともかく、優秀なビジネスマンたるジョン・クラウリーとは正反対な、人間関係苦手タイプ。その彼が実際にメーガンと会って話す場面は実に微笑ましく心温まる。フォードが演じたのも無骨さがあって良かった。

 ラストにはシュガーハイでケタケタ笑う子供達の姿。それは生理現象だけど、こちらも一緒に笑いたくなる。馬車馬のように働いた父さん、それを支えた母さん、生きる決意を固め病気と闘った子供達、治療薬の開発に携わった科学者達みんなの力が合わさって訪れた瞬間。

 なんだ結局自分の子が助かりゃそれで良いのか、と言われそうな展開なのだけど。ちょっと待って。だって、父さんは我が娘と息子を助けたくて、何もかも捨ててガムシャラに頑張ってきたんだもん。だから自分の子らを最優先するのは当然なんじゃないかね。他の同じ病気の子供達のことも勿論助けたいと思ってるのはアタリマエだし、ソレとコレとは違うよね。

 本物のジョンは現在、生物医薬品会社アミカス・セラピューティックスの社長。様々な希少な遺伝疾患の治療薬開発に力を入れる新しい医薬品会社なのだそうだ。治療薬のもたらす幸福を彼は知っているから、だからこそ続けられるのかもしれない。自分の子らが助かったらもうオシマイ!なんて考えていない証拠だと思う。ちなみにジョン本人が映画にカメオ出演してたそうな。レンズラー・ベンチャー・キャピタルの人だって。

 ジョンを演じたブレンダンは子供向け映画とか肉体派なイメージがあるかもしれないけど、実は演技派なのよね。今作ではそれがうまく活かせていて素晴らしかったです。魅惑の庭師を演じた『ゴッド・アンド・モンスター』は超おすすめ!
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ポンペ病って何?
 日本では糖原病II型と言われ、通称ポンペ病。先天的な遺伝子異常で、保因者(その遺伝子を持ってる人)は200~300人に一人、患者は4万人に一人と言われています。

 両親共に保因者でないとポンペ病の子供は生まれません。生まれた子は25%の確率で発症。また、保因者ではあるが発症しない確率は50%、その遺伝子を受け継がない確率が25%です。映画のクラウリー家で言えば、両親のジョンとアイリーンが発症しない保因者(50%)であり、長男のジュニアは発症しない保因者(50%)或いは遺伝してない(25%)ことになる。メーガンとパトリックの2人は不運にも発症(25%)してしまった。

 ポンペ病にも乳児型・小児型・成人型の分類があって、メーガン達は小児型。生後6ヶ月以降に発症する小児型の場合は、推定寿命9歳。発症が早いと概ね2歳までに亡くなるという。生後数ヶ月で発症する乳児型の場合はより進行が早く、心臓の働きが弱く、母乳を吸う力が弱いために発育不全になり1歳までに亡くなることが多いのだとか。生まれて1歳、2歳長くて9歳で寿命を迎えるなんて!

 よし、レアな遺伝病且つ難病なことはわかった。じゃあ、どんな病気なの?通常、人間は糖をグリコーゲンにして体内に貯めておき、エネルギーが必要なときにグリコーゲンを分解してグルコース(ブドウ糖)に変換します。グルコースはアセチル-CoAどーのこーのでTCA回路になんだかんだして使えるエネルギーになるよ!要はこのグリコーゲンをブドウ糖へと分解するための酵素の一つ;酸性α-グルコシダーゼが欠乏している為に、分解できないグリコーゲンが筋肉の中に溜まってしまう病気。グリコーゲンが過剰に溜まると細胞が損傷を受ける為、筋肉がどんどん弱くなり、体に力が入らなくなる。

 メーガンとパトリックのような小児型の場合は立つことも出来ず、顔の表情が作れない、食事できない、話せない、呼吸できない、心臓肥大による心不全…といった症状が。メーガン達は車椅子で生活し、人工呼吸器がないと息も出来ない状態でしたね。

 成人型の場合は病状の進行はスローで、筋肉や呼吸の働きが弱まります。治療薬は映画で描かれたマイオザイムとは別に、2010年5月25日に米国で承認された遅発型ポンペ病治療薬Lumizymeというものがあります(どちらもジェンザイムから発売)。こちらの治療薬は8歳以上の遅発型に対して有効だとか。

 今のところマイオザイムなどの治療薬で完治するわけではないけど、投与を続けることで症状を抑えることが出来ます。2週間に一度4時間の点滴を受けることで足りない酵素を補充して、溜まったグリコーゲンを分解するんだって。ただしアナフィラキシー反応が起きて蕁麻疹や発熱・頻呼吸等の症状が出る可能性もあるそうだけど。それでもさ、今までは為す術なく死ぬしかなかった病が、この治療薬のお陰で生き続けることができる!凄いことだよね!

 映画ではメーガンが8歳になり、推定寿命の9歳が間近になる演出で焦燥感を出していました。実際のメーガンが治療薬の投与を受け始めたのは5歳の時(パトリックは4歳)で、そこら辺の映画的脚色はまあうまく働いていたような気がします。

 筋肉が弱くなり力が入らなくなる症状から筋ジストロフィーと誤診される場合もあるそうで、医者がポンペ病について知識が浅いと適切な治療(マイオザイム投与)すら受けられません。医者の診断に頼るしかない患者やその家族は、本当の病名すら知らず筋ジストロフィーなんだと思い込むしかないですからね。この映画はポンペ病の存在をまず知ってもらう、ポンペ病であれば症状を抑える治療薬があるよ、と呼びかけるために有効だったんじゃないかな。
※参考サイト
糖源病2型(ポンペ病)とは(ジェンザイム・ジャパン)
FDA 遅発型ポンペ病治療薬Lumizymeを承認(ミクスonline)
マイオザイム:糖原病II型の特効薬(日経メディカルオンライン)

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