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エクスペリメント 【目に見える 神がいるなら 思考停止】

tag サスペンス ヒューマン

『エクスペリメント』 The Experiment
2010年・アメリカ
ドイツ映画『es エス』のリメイク。実際の心理学実験をモデルとする。

 1971年に行われたアイヒマン・テストの一種、ロールプレイングを用いた心理学実験―スタンフォード大学監獄実験を元ネタにした映画。14日間の予定が6日目で中止を余儀なくされた、実験の倫理問題を扱う際に必ず引き合いに出される悪名高い実験。心理学を勉強すると絶対に教科書に載ってますよ。

 実際のスタンフォード大学監獄実験については、オリジナルのドイツ映画『es [エス]』の感想エントリに書いたので省略。興味のある方は読んでみてください。

 さて本作。イライジャ・ウッドも出演予定だったんだけど、撮影2,3日で降板しちゃったそうです。そんなわけでエイドリアン・ブロディとフォレスト・ウィテカーの一騎打ち的様相。

 オリジナル版と概ね同じキャラクター配置&イベント発生。けど、このリメイク版では主題がどうも違う。善悪の判断基準を何に委ね、どう行動するか、という点を描いています。なので不条理ホラーな展開になってしまっている印象を受けました。私はオリジナル版の方が好きだぜ。
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どんな映画?
 オリジナル版は、普通の人達が徐々に役割にはまり込んでエスカレートする話。なんと実験を行っていた側もハマッてしまったという実話のエピソードも盛り込んで、映画的脚色は施したものの大筋で事実に沿った内容でした。制服に服従する囚人チーム、与えられた権力を力一杯行使する看守チーム。普通の、その辺の、誰でもが、かかってしまう心理の恐ろしさ!

 で、このリメイク版は実話からちょっと離れたとこに存在している感。実験が始まると、実験者側が全く描かれず、その意図が不明。それが不気味さを醸し出し、狙いは何なのか、一体この光景を観ているのか、いないのかと被験者と一緒に不安な気持ちになります。この演出は、しかしながらラストにもやもや感を残すのみで、うまく働いていない気がしたな。これじゃ不条理ホラーじゃん!

 失敗の一因はフォレスト・ウィテカーがはまり過ぎたことにあると思う。看守チームに入るウィテカーは、手にした権力に酔い、箍が外れていく。その様子が、どう見てもサイコだ。あれー、この人は最初からソノ気があったんだー、やっべえ!としか思えないワケ。日常生活での鬱憤があったんじゃないか、家庭での抑圧された何かがあったんじゃないか。

 これ、そういう映画にしちゃダメだと思うんだ。ソノ気がない普通の人達が、異常な環境下で支配―服従の関係をエスカレートさせていく狂気が欲しいんだよ!人間心理の闇をエグらなきゃ!

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 でもね。このリメイク版で言いたいことは、そういうことじゃなかったっぽいんだ。被験者応募の面接テープが時折挟まれるのだけど、そこでは「神を信じるか?」「判断基準は何か?」といった問答が繰り広げられる。そう、善悪とか正誤の判断基準をどこに置くのか。そしてそれは絶対的に正しいのか。それがテーマになってますた。

 実験では赤いランプが神のような存在。点いたら実験は中止=間違い。点かなければ、それは正しいことをしている証拠。絶対の判断基準になってるわけだ。囚人チームに罰を与える、その罰はどんなものが適正か。罰を考え実行したのち、30分経っても赤ランプが点かなければ正しい判断と保証される。目に見えて自分の行いを判断してくれる赤ランプ!そして赤ランプへの依存が始まる。点かなければ、何をしても構わないのだ。責任転嫁ともいえるね。

 怖いよね。この映画は、たまたま実験という環境下で赤ランプ(の向こうにいるはずの実験者)が判断基準になっているけれど。これと同じ事は幾らでも現実に溢れているじゃないか。ヒトラー、宗教、聖書、国家元首、政府、チームリーダー、会社、先生、或いは親。赤ランプの様子を窺うように、彼らの様子を窺っていないだろうか。彼らの判断に盲目的に従っていたら、SSの二の舞。火事になった教会に人々を閉じ込めておけと命令されたら、その通りにするのか。自分は悪くない、これは秩序を守る為だ、と。自分は正しいのだ、と。

 誰にでも起こりうることで、私だってどんなにキレイゴトを言ってみても、いざその場になってみなきゃどんな行動をするのかわからない。役割、集団、権威、制服、命令…。普段の自分なら決してしないことも、してしまう可能性はいつだってある。
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こんばんは!!

なるは | URL | 2010年12月23日(Thu)23:16 [EDIT]

>日常生活での鬱憤があったんじゃないか、
>家庭での抑圧された何かがあったんじゃないか。

この実験の意図、
この映画の意図、
『es』を観ているからこそわかる、
Pさんの意見になるほど!と思いました。
確かにフォレストが演じた役は、
その「素質」がありましたよね、既に。

>善悪とか正誤の判断基準を
>どこに置くのか
この大切な部分、
私全然自分の映画レポで触れられませんでした…。
そうなんですよね…
何を信じているか。
何が基準か。
許される→エスカレートが恐い作品でした。

狭い世界に生きていたら、
私もきっと盲目になってしまいそう。
それが人間の本能というか習性というか。。。
でもそこに甘えてはいけないですよね。

ああとっても勉強になりました!!
Pさんのレビュー本当におもしろかったです!!

>なるはさま。

P | URL | 2010年12月26日(Sun)01:22 [EDIT]

狭い世界でなくても、権力(制服、圧力、警棒、使命感)は人の心を変容させるものだと思います。
良くも悪くも。
そして囚人チームのように、やはり服装や扱われ方で心の持ちようが卑屈に変容すると思います。

人は周りの環境から途方もなく影響を受けて当たり前。見せかけの威厳や権威にさえ、ついつい心が萎縮したり恐怖心を覚えたり従順になったりもする。
それでも大事なものさえ守っていれば良いと思うんですよね~。

この映画の主人公は我が強いというよりも仲間を守りたい気持ち、偽物の権威をカサに着て振る舞う奴らへの怒りがあったんじゃないでしょうかね。私にはそう見えました。

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